
「DX人材を育成したいが、何をスキルの基準にすればいいかわからない」
そう感じている人事・DX推進担当者の方に、見逃せない動きがあります。
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)は2026年4月、「デジタルスキル標準」のバージョン2.0を公表しました。
2022年の初版から約3年半、初のメジャーバージョンアップです。AI時代においては、AIを活用するための前提となる「データを整える役割」の重要性が増すなか、DX推進スキル標準には「データマネジメント類型」が新設されるなど、求められる人材像が刷新されました。
この記事では、デジタルスキル標準の基本から今回の改訂ポイント、企業としての活用方法まで、初めての方にもわかりやすく解説します。
目次
デジタルスキル標準が生まれた背景
DXの推進が急務とされるなか、多くの日本企業が共通の壁に直面しています。それが「DXを担う人材の不足」です。
DXを進めるにはデジタル技術の知識やスキルを持った人材が欠かせませんが、「どんなスキルを・誰に・どのレベルまで身につけさせるか」という基準は企業ごとにバラバラなのが現状です。そこで経済産業省とIPAは、企業や個人が共通の指針として使える標準を整備しました。それがデジタルスキル標準(DSS)です。
(出典:経済産業省「デジタルスキル標準」)
デジタルスキル標準の2つの構成
デジタルスキル標準は、2種類の標準で構成されています。
(出典:経済産業省「デジタルスキル標準 ver.2.0」)
① DXリテラシー標準(DSS-L)
経営層を含む全ビジネスパーソンを対象とした標準です。IT部門や専門職に限らず、職種・部署を問わず全社員が身につけるべきDXの基礎的な素養の指針として活用できます。
DXリテラシー標準(以下、DSS-L)のねらいは、一人ひとりがDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを自分ごとと捉え、変革に向けて行動できるようになることです。そのために身につけるべき知識・スキル・姿勢を、以下の4つの要素で体系的に定義しています。
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マインド・スタンス |
変化し続ける社会において新たな価値を生み出すための、意識・姿勢・行動の土台となる指針 |
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Why(DXの背景) |
データやデジタル技術の進化によって産業構造や競争環境がどう変化しているか、なぜDXが必要なのかを理解する |
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What(データ・技術) |
DXの実現手段となるデータやデジタル技術(AI・クラウド・IoTなど)の基本的な仕組みや特性を知る |
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How(データ・技術の利活用) |
データやデジタル技術を実際の業務やビジネスにどう活かすか、利活用の考え方や方法を身につける |
「マインド・スタンス」はDXに限らない変化するビジネス環境に対応できるベースとして位置づけられており、他の「Why・What・How」と組み合わさって、社員一人ひとりがDXを実践する基礎力を養う指針となるよう設計されています。

(出典:デジタルスキル標準)
説明に加えて、身につけるための例も紹介されています。
全社員がこの4つの要素を身につけていることで、DX推進における組織全体の底上げと、専門人材(DX推進スキル標準 対象者)との協働が進み、DXが加速します。
組織が変革するということは全員が変わることに他なりません。旗振り役がいても、全員が同じ方向を向き、活動を合わせられないと、DXの効果が出ません。
② DX推進スキル標準(DSS-P)
組織内でDXを推進する人材を対象とした標準です。「どんな役割の人材が必要か」「その役割にはどんなスキルが求められるか」を類型・ロールという2段階で定義しています。
なお、DX推進人材はDXリテラシー標準を身につけていることが前提です。
DX推進スキル標準(以下、DSS-P)では、DXを推進するうえで必要な専門人材を6つの類型に分類し、さらに各類型には業務の違いに応じたロールを定義しています。ver.2.0における各類型の概要は以下の通りです。
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類型 |
類型の概要 |
主なロール |
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ビジネスアーキテクト |
経営戦略をもとにビジネスモデル変革を構想・設計し、関係者を巻き込みながらDXを推進する |
ビジネスアーキテクト/ビジネスアナリスト/プロダクトマネージャー |
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デザイナー |
ビジネス・顧客・コミュニケーションの視点を総合的にとらえ、製品・サービスの方針やデザインを担う |
サービスデザイナー/UX/UIデザイナー/ コミュニケーションデザイナー |
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データサイエンティスト |
事業戦略に沿ったデータ・AI活用を推進し、データの処理・解析からビジネス価値の創出までを担う |
データビジネスストラテジスト/ データサイエンスプロフェッショナル |
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ソフトウェアエンジニア |
デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・開発・運用を担う |
フロントエンドエンジニア/バックエンドエンジニア/ クラウドエンジニア・SRE/ フィジカルコンピューティングエンジニア |
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サイバーセキュリティ |
DXの推進に伴うサイバーセキュリティリスクを管理し、対策の導入・保守・運用を担う |
サイバーセキュリティマネージャー/ サイバーセキュリティエンジニア |
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データマネジメント |
データの安全性・信頼性を確保し、継続的なデータ流通の仕組みを設計・運用することで、組織全体のデータ利活用を促進する |
データスチュワード/データエンジニア/ データアーキテクト |
また、DSS-Pには66の「共通スキル」が定義されており、それぞれのロールで求められるスキルも記載されています。

(出典:デジタルスキル標準)
※赤枠は当社で追加
なお、DSS-Pに示されているDX推進に必要な類型やロールは、全てを最初から自社で揃えることは必須と考えられていません。自社は一部だけ、他はパートナーから、など事業規模やDXの推進度合いに応じて、体制を揃えていくことが想定されています。自社のDX推進フェーズや優先課題に合わせて、どの類型・ロールの人材から育成・採用するかを検討するための指針として活用できます。
誰が・どう使う?
デジタルスキル標準は、企業・個人・教育事業者それぞれの立場で活用できます。人事・DX推進担当者にとっては特に、社内のスキル要件定義や採用・育成計画の「共通言語」として機能します。経営層への説明や、部門をまたいだ人材育成施策の設計においても、国の指針であることが根拠として使いやすい点が大きなメリットです。
これまでの改訂の歩み
デジタルスキル標準は、技術革新や産業構造の変化に合わせて継続的に見直しが行われてきました。2022年の初版公表から今回のver.2.0まで、改訂の背景には常に「AIの急速な進化への対応」がありました。
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バージョン |
公表時期 |
主な改訂内容 |
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ver.1.0 |
2022年12月 |
Ver1.0公開。DSS-L・DSS-Pの2つの標準を定義 (DSS-Lは2022年3月に先行公開) |
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ver.1.1 |
2023年8月 |
生成AIの急速な普及を受け、DSS-Lに生成AIに関する学習項目例やマインド・スタンスの補記の追加 |
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ver.1.2 |
2024年7月 |
生成AIに関してDXを推進する人材に求められる行動例や学習項目例および、ビジネスアーキテクトの定義を追加 |
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ver.2.0 |
2026年4月 |
初のメジャーバージョンアップ。データマネジメント類型の新設など、類型・スキルを大幅改訂 |
ver.1.xとver.2.0の違い
ver.1.1・ver.1.2はいずれも、生成AIの急速な普及という変化に対応するための「追記・補記」が中心の改訂でした。既存の類型やロールの枠組みはそのままに、定義や項目を足していくアップデートです。
一方、今回のver.2.0は類型・スキルの見直しが行われており、2022年の初版公開以来、初めてのメジャーバージョンアップとなります。
(出典:IPA「デジタルスキル標準ver.2.0を公開」)
ver.2.0における主な改訂は、大きく3つのポイントに整理できます。いずれも「AX(AIトランスフォーメーション)の進展」と「ビジネス変革の加速」という時代の変化を背景にした見直しです。
(出典:IPA「デジタルスキル標準ver.2.0を公開」)
ポイント① 「データマネジメント類型」の新設
今回の改訂で最も注目すべきポイントは、DSS-Pへのデータマネジメント類型の新設です。
AIを業務に活用するためには、AIに処理させるデータそのものが整備されていることが前提となります。しかし従来のデジタルスキル標準には、データの収集・管理・利活用を専門的に担うロールの定義が明確ではありませんでした。この課題に対応すべく、新たに以下の3つのロールが定義されました。
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データスチュワード |
データの品質管理・ルール整備・社内のデータ活用推進 |
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データエンジニア |
データ基盤の構築・運用・データパイプラインの整備 |
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データアーキテクト |
データ戦略の設計・全社的なデータ基盤のアーキテクチャ策定 |
AI活用を組織の重点課題としている企業ほど、これらのロールを担える人材が社内にいるか、改めて確認する必要があります。
ポイント② 「ビジネスアーキテクト類型」・「デザイナー類型」のロール改訂
ビジネスアーキテクト類型は、ビジネス変革を構想・推進する役割です。従来は、事業の領域(新規、既存など)ごとにロールが定義されていましたが、職能ごとのロール定義になり、以下の3つのロールに再定義されました。
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ビジネスアーキテクト |
戦略を構造化し変革ロードマップを立案、経営判断の支援 |
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ビジネスアナリスト |
業務課題の分析・要求整理・改善施策の立案 |
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プロダクトマネージャー |
プロダクトの企画・開発推進・価値最大化 |
DXがプロジェクト単位から「ビジネスモデルや組織全体の継続的な変革」へと広がるなかで、これらの役割を担う人材の重要性が一層高まっています。
また、デザイナー類型にはコミュニケーションデザイナーが新設され、変革における関係者の連携や共創をデザインのアプローチで促すことも含む役割も定義されました。さらに、デザインマネジメント実践のスキルが追加されました(DSS-Lにも反映されています)。
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サービスデザイナー |
DXによるビジネスモデル変革の構想・設計 |
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UX/UIデザイナー |
ユーザー体験を設計し、サービスや機能、外見をデザイン |
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コミュニケーションデザイナー |
ユーザー接点を横断し一貫した体験を設計する |
ポイント③ AI実装・AIガバナンスに関するスキルの拡充
ver.2.0では、特定の類型に限らず全類型に共通するスキルリストにも大きな見直しが入りました。具体的には「AI実装・運用」と「AIガバナンス」に関するスキルが新たに追加されています。
これはAIの活用が一部の専門職だけでなく、DX推進に関わる人材全員に求められるスキルになったことを意味します。AI導入を推進する立場の人材はもちろん、AIの利用ルールやリスク管理を担う人材にも、対応すべきスキルが明確化された点はAI推進体制の整備において重要な指針となります。
デジタルスキル標準は、資料を読んで終わりではなく、自社の人材戦略に組み込んで初めて価値を発揮します。IPAが公表している活用事例集でも、多くの企業が共通して「人材の定義→スキルの可視化→育成施策の実行」という3つのステップでデジタルスキル標準を活用していることがわかります。
(出典:IPA「デジタルスキル標準(DSS)活用事例集」)
STEP1:自社のDX人材を定義する
最初のステップは、デジタルスキル標準の類型・ロール定義を「そのまま使う」か「自社向けにカスタマイズする」かを判断しながら、自社に必要なDX人材像を明文化することです。
ファミリーマートは、デジタルスキル標準に基づき「ビジネスアーキテクト」「データ活用人財」「システム開発推進人財」の3種類の人材を定義し、育成施策を実行しています。
デジタルスキル標準の類型・ロールをそのまま採用する企業もあれば、自社の事業構造や規模に合わせてカスタマイズする企業もあります。いずれにせよ、国の指針という根拠を起点にすることで、人材定義の納得度と社内外への説明のしやすさが大きく向上します。
STEP2:現状のスキルを可視化する
人材定義ができたら、次は社員一人ひとりの現在のスキルを把握するステップです。定義したロールと現状のスキルのギャップを把握することで、育成や採用の優先順位が明確になります。
資生堂インタラクティブビューティーでは、デジタルスキル標準をもとに定義した人材・スキルに基づいてアセスメントを実施し、個人が保有するスキルを可視化・定量化することで、求められるレベルとのギャップを把握し、レベルに応じた育成アクションを明確化しています。
スキルの可視化に際して、まず全社員のDXリテラシーの状態を把握したいという企業には、DXリテラシー標準(DSS-L)に準拠したスキル測定ツールの活用が有効です。ウチダ人材開発センタが提供する「IT・DXレベル測定 i測」は、ITリテラシーとDXリテラシーの2軸で全社員のスキルレベルをオンラインで可視化できるツールです。業種・職種を問わず活用でき、組織全体の「現在地」を把握する最初の一歩として活用いただけます。
STEP3:育成施策・研修を設計・実行する
スキルのギャップが可視化されたら、それを埋めるための研修・育成施策の設計に移ります。デジタルスキル標準は類型・ロールごとに習得すべきスキルが体系化されているため、研修カリキュラムの設計に活用できます。
関西電力では、高度DX人財・各部門のDX推進者・全社員の三層の人財を設定し、DSSに基づきスキル・マインドセットを定義したDX人財戦略を策定したうえで、人財像・習熟度ごとに必要な育成施策を実施しています。
※各企業の事例は、IPA「デジタルスキル標準(DSS)活用事例集」を参照し弊社が表記しております。
ウチダ人材開発センタがご支援させていただいた竹中工務店様では、社内業務だけでなく建設事業全体のデジタル化を推進していくため、デジタルそのものの専門性に加え、ビジネスの側面の専門性を兼ね備えた人材の育成を行っております。その中で、ビジネスアーキテクト育成講座をご提供いたしました。
活用にあたって押さえておきたい注意点
デジタルスキル標準を活用する際に見落としがちな点が1つあります。それは、DSSはあくまで「指針」であり「義務」ではないという点です。すべての類型・ロールを社内に揃えなければならないわけではありません。
また、経済産業省とIPAでは、デジタルスキル標準に紐づけて個人のスキル情報を蓄積・可視化する仕組みとして「個人のデジタルスキルを登録するプラットフォーム(デジタル人材スキルプラットフォーム)」の構築を進めており、個人が自身のキャリア目標に応じ、主体的にスキルアップを継続できる環境の整備を進めています。人材育成の基盤づくりと並行して、こうした公的なプラットフォームの動向も注視しておくと良いでしょう。
(出典:デジタル人材育成政策の現状と今後)
今回の改訂では、「AIを使いこなすだけでなく、AIが活用できるデータを整える人材が不可欠な時代が来た」というメッセージが読み取れます。データマネジメント類型の新設はその象徴であり、AI活用を組織として本格推進するためには、AIを動かすデータの基盤とそれを担う人材が欠かせない要素として位置づけられました。
自社のDX推進計画や人材育成制度をver.1.xベースで設計していた企業やDX人材育成を計画段階の企業にとっては、今回のver.2.0公表は制度の見直しを始める絶好のタイミングです。デジタルスキル標準と自社の人材を照らし合わせるところから始めることをおすすめします。
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